40代後半から50代にかけて訪れる更年期は、多くの女性を悩ませています。女性ホルモン(エストロゲン)の減少や、心理・社会的背景が原因とされています。更年期には、実に多彩な症状が現れます。ホルモン補充療法(HRT)が代表的な治療法ですが、漢方薬も、更年期障害の治療に有効です。本記事では、更年期障害に対する漢方薬について解説します。1)
更年期に対する漢方医学の視点
漢方医学は西洋医学とは少々考え方が異なります。特定の症状や病気を標的とした治療ではなく、一人ひとりの体質や心身の状態を総合的に捉えて治療します。
HRTと比べ、エビデンスには乏しい部分もありますが、効果が期待されている治療です。
ホルモン補充療法(HRT)と漢方薬
更年期障害の代表的な治療はHRTですが、過去の病気や現在治療している病気によっては、適応できないことがあります。また、HRTはのぼせやホットフラッシュなどの血管運動神経症状にはとくに有効とされていますが、精神的な不調や関節痛といった症状には効果が乏しいことも少なくありません。2)
一方で漢方薬は、ホットフラッシュも含め広く効果が期待できますが、HRTほどの即効性はなく、効果は一般的に穏やかとされています。
では、漢方薬がなぜ更年期のさまざまな症状に対して効果が期待できるのでしょうか。次に漢方薬の考え方について解説します。
気血水の考え方と更年期症状
東洋医学では、私たちの身体は「気(き)・血(けつ)・水(すい)」の3つが主な要素として構成されていると考えます。これらが体内を巡り、バランスが保たれている状態が「健康」です。気血水の簡単なイメージは以下のとおりです。3)
気:生命機能を維持するエネルギー
血:生命を支える血液やホルモンのようなもの
水:体液や汗など体内の水分
更年期には、ホルモンバランスの変化により気血水の流れが乱れ、のぼせ、冷え、疲労感、むくみなどの様々な症状が現れると考えられています。
婦人科三大漢方
保険診療で使用される漢方薬は、現在約150種類あります。そのなかで、更年期をはじめ、婦人科診療において使用頻度の高い3つの漢方薬をご紹介します。1)
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
体力があまりなく、冷え性や疲れを感じやすい方におすすめです。肩こり、立ちくらみ、めまい、むくみ、月経不順などの症状を改善します。血行を良くする漢方薬です。
加味逍遙散(かみしょうようさん)
ほてりやホットフラッシュに悩まされ、イライラや不安感、不眠といった精神面の不調がある方におすすめです。気血水をバランスよく整える漢方薬です。便がゆるくなることがあり、軽度の便秘の場合には、便通の改善を感じる方もいます。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
比較的体力があり、のぼせや足の冷え、肩こり、下腹部痛などがある方におすすめです。当帰芍薬散と同じく血行を良くする漢方薬です。
上記はあくまでそれぞれの漢方薬の構成生薬に基づくイメージであり、他にも多くの漢方が更年期障害の治療には使用されます。実際にどの漢方薬が適しているかは、効果を見て判断します。
まとめ
更年期障害に対する漢方治療は、ホルモン補充療法とは異なったアプローチで、心身の不調を改善します。個人の体質や症状に合わせた処方が可能です。ときに西洋医学のホルモン補充療法と併用することもあります。自分に合ったケアを見つけるための一歩として、漢方という選択肢を考えてみてはいかがでしょうか。
監修

宮本亜希子 先生
BIANCA CLINIC 女性医療クリニックLUNA スワンクリニック銀座
参考文献
1) 日本産婦人科学会. “更年期障害”. 日本産婦人科学会.
https://www.jsog.or.jp/citizen/5717/ , (参照 2025-08-03).
2)一般社団法人 日本女性医学学会. “ホルモン補充療法を考えている方へ”. 一般社団法人 日本女性医学学会.
https://www.jmwh.jp/pdf/hrt_guide_book.pdf , (参照 2025-08-03).
3) Terauchi, Masakazu et al. Effects of three Kampo formulae: Tokishakuyakusan (TJ-23), Kamishoyosan (TJ-24), and Keishibukuryogan (TJ-25) on Japanese peri- and postmenopausal women with sleep disturbances. Archives of Gynecology and Obstetrics. 2011, vol. 284, p. 913-921.
https://link.springer.com/article/10.1007/s00404-010-1779-4(参照:2025-08-03).
