出産後は甲状腺の異常が起きやすい?知っておきたい原因や症状、治療法を解説!

産後ケア

2025年11月25日

妊娠前や出産前に発症していなくとも、出産を経た女性に甲状腺機能の異常が起きるケースは珍しくありません。しかし、甲状腺機能の異常により起きる症状は「産後の大変な時期だから仕方がない」と見過ごしてしまう場合が多いです。産後の大変な時期だからこそ、自分の身体を労れるよう、本記事では事前に知っておきたい出産後に起こりやすい甲状腺機能異常について解説します。

出産後に甲状腺機能の異常が起きやすい理由

実は、女性の中には妊娠・出産をきっかけに、甲状腺機能異常症を発症する方は少なくありません。出産後の女性の体では、甲状腺に関する免疫の変化が起こります。

妊娠中の体の状態
・赤ちゃんを守るために免疫システムが抑えられている
・ホルモンバランスが大きく変化

出産後の体の状態
・免疫システムが急激に活発になる
・ホルモンバランスが元に戻ろうとする

この急激な変化により、甲状腺に負担がかかり、トラブルが起きやすくなります1)

出産後の甲状腺機能異常で起きやすい症状

出産後の甲状腺機能異常には多彩な経過パターンがあり、主に以下の病型に分類されます2)

無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺中毒症)

出産後2~4ヶ月に発症することが多く3)、以下の症状が現れます。

  • 動悸、頻脈
  • 発汗過多
  • 手指振戦
  • 体重減少
  • 易疲労感
  • イライラ感、神経質

これらの症状は、育児ストレスと混同されやすいため注意が必要です。多くの場合は、約3ヶ月で自然に改善していきます。

バセドウ病(永続性甲状腺中毒症)

出産4ヶ月以降に発症することが多く3)、TSH受容体抗体(TRAb)陽性が特徴です4)

  • 甲状腺腫大(びまん性)
  • 眼球突出
  • 動悸、頻脈
  • 発汗過多
  • 手指振戦
  • 体重減少
  • 易疲労感
  • イライラ感、神経質
  • 暑がり、発熱

症状は破壊性甲状腺中毒症と類似していますが、より持続的で進行性の傾向があります。

甲状腺機能低下症(橋本病も含む)

出産後の甲状腺機能低下症の多くは橋本病が基盤となっています5)。初期には甲状腺機能亢進症状が見られることもありますが、進行すると機能低下症状へ移行するケースもあります。

  • 寒がり
  • むくみ
  • 記憶力低下
  • 全身の疲労感
  • 毛髪が抜けやすい
  • 眉毛外側の脱毛6)
  • 体重増加
  • 便秘
  • 徐脈
  • 抑うつ状態
  • 皮膚乾燥

これらの症状も、産後うつや育児疲れとの鑑別が難しい場合が多いです。

出産後の甲状腺機能異常の主な検査方法と治療法

甲状腺機能を調べる場合、血液検査でTSH(甲状腺刺激ホルモン)と遊離サイロキシン(FT4必要に応じてFT3)を調べます。甲状腺に関する抗体の有無も、血液検査で確認可能です5)。たとえば、血液検査で「抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)」や「抗サイログロブリン抗体(TgAb)」、「抗TSH受容体抗体(TRAb)」が(+)と出た場合は、体内で甲状腺に対する自己免疫反応が起きている状態です4)
甲状腺機能異常は基本的には投薬治療が多いですが、授乳中でも乳幼児には影響しない安全な薬があるため子どもへの副作用は気にせず済みます7)。また、大抵は、数ヶ月で自然に寛解するケースが多いです3)が、短期間で破壊性甲状腺炎からバセドウ病へ移行した事例もあります1)。橋本病やバセドウ病を発症した場合は、長期戦になる可能性があることを覚えておきましょう。

不調を「産後だから」でスルーしないようにしよう

出産後の甲状腺機能異常は5〜10%の女性に起こると言われており1)、決して珍しい疾患ではありません。産後の体調不良を「産後だから」と決めつけず、疲労感や体重増減などが続く場合は、甲状腺機能の検査をおすすめします。出産を控えている女性や産後の不調にお悩みの方は、かかりつけ医に相談しましょう。

監修

柴田綾子 先生
淀川キリスト教病院 医長

参考文献

1)金崎淑子ほか. 出産後早期に破壊性甲状腺炎による甲状腺中毒症をきたし,短期間でバセドウ病に移行した出産後甲状腺機能異常症の1例. 徳島赤十字病院医学雑誌. 2017, vol.22, no.1, p.109-112.

2)吉村弘. 甲状腺ホルモン異常のアプローチ. 日本内科学会雑誌. 2014, vol.103, no.4, p.855-861.

3)厚生労働省. “重篤副作用疾患別対応マニュアル 甲状腺中毒症”. https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1d05.pdf . (参照 2025-09-10).

4)笠木寛治. 甲状腺疾患の臨床. 高松赤十字病院紀要. 2014, vol.2, p.3-9.

5)日本臨床検査医学会. 甲状腺機能亢進症・機能低下症. ガイドライン2005/2006. 2006, p.214-218.

6)佐々木悠ほか. 病気の顔貌と容貌(6):甲状腺機能低下症(特に橋本病:Hashimoto’s thyroiditis)について. 健康科学. 1991, vol.13, p.165-176.

7)国立研究開発法人国立成育医療研究センター. “橋本病と妊娠 知って安心BOOK”. https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/jyosei/naika/josei-leaf01.pdf , (参照 2025-09-10).

執筆

薬機法&医療広告ガイドライン対応ライター 芹澤美咲さん