出産を終えた体と心は、想像以上に大きな変化を迎えます。「思っていたより体がつらい」「ちょっとしたことで涙が出る」「くしゃみをしただけで尿がもれる」などと、戸惑いを感じている方も多いのではないでしょうか。こうした変化は決して珍しいものではなく、出産を経験した方の多くが感じていることです。
本記事では、産後に起こりやすい体と心の不調と、その対処法について解説します。
産後の不調① ~腰痛の原因とセルフケア~
腰痛は産後によくある症状の一つです。ある研究では、出産後1ヵ月の時点で半数以上の女性が腰痛を訴えていたと報告されています1)。
原因としては、妊娠後期から産後初期にかけて骨盤の関節がゆるみ、不安定になることに加え、抱っこや授乳によって腰や背中に負担がかかる点が挙げられます。
腰痛を感じたら、まずは腰に負担がかかる姿勢を避けるように心がけましょう。授乳のときは、クッションなどを赤ちゃんの下において高さを調節し、赤ちゃんのベットの高さや抱っこの姿勢、抱っこひもを調節し、腰に負担がかからないようにするのがおすすめです1)。腰を温めたり、軽いストレッチを取り入れたりすることで、血流が促進されて痛みの緩和につながります。痛みが長引く場合は、整形外科や産後リハビリを行う医療機関や理学療法士に相談してみてください。
産後の不調② ~尿漏れと骨盤底筋体操~
産後の尿漏れも、多くの女性が経験する悩みです。妊娠中の赤ちゃんの重さによる負担や、赤ちゃんが産道を通る際に骨盤底筋という筋肉が引き伸ばされ、その機能が一時的に低下することが原因で起こります。特に、経腟分娩や会陰切開を経験した方に多く、出産経験者の約半数が何らかの症状を感じていたという研究結果もあります3)。
対処法として効果的なのが、骨盤底筋体操です。
仰向けに寝た状態で、息を吐きながら肛門や腟を軽く締め、吸うときにゆるめる動作を繰り返します。効果を実感できるのは体操を始めて2~3週間後だといわれており、毎日続けることが大切です4)。慣れてきたら、座位や立位でも行ってみましょう。
産後の不調③ ~腱鞘炎~
産後1〜2カ月頃から出現しやすいのが、手首の腱鞘炎です。授乳や抱っこ、おむつ替えなどの動作を繰り返すことによって、手首に長期間負担がかかり、腱鞘炎が起こります5)。
予防のポイントは、手首だけでなく前腕全体で赤ちゃんを支えることです。左右の腕を交互に使ったり、抱っこひもやクッションなどの補助グッズも活用したりして、手首の負担を減らす工夫をしてみましょう。
産後の不調④ ~心の変化とその対処法~
出産後は、ホルモンバランスの変化や育児による疲労から、心が不安定になりやすいです。「マタニティブルーズ」は産後にみられる一時的な気分の落ち込みで、数日から2週間程度で落ち着きます。しかし、2週間以上続く場合は「産後うつ」の可能性があるため注意が必要です6)。
不安や孤独を感じたときには自分を責めず、パートナーや家族、かかりつけの産婦人科や助産師、お住まいの地域の保健師に相談しましょう。地域の保健センターや子育て支援窓口など、公的なサポートも活用できます。自治体の産後ケア事業では、産後ケア施設(お母さんと赤ちゃんが一緒に宿泊できる施設)や自宅を訪問して授乳や沐浴を支援してくれるサポートもあります。
まとめ
出産を終えたばかりの体と心には、大きな変化が起こっています。今、感じているつらさや不安には理由があり、決して「気のせい」ではありません。
ご自身の体と心の声に耳を傾けて、無理をせず、自分の体をいたわりながら産後の時期を過ごしましょう。
監修

柴田綾子 先生
淀川キリスト教病院 医長
参考文献
1) 中澤貴代, 髙室典子, 山中正紀, 良村貞子:産褥期の腰痛に関する研究, 看護総合科学研究会誌,9(3),3-14,2006.
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/35509/1/9-3_p3-14.pdf
2) 平元奈津子. 産褥期のリハビリテーション医療.Jpn J Rehabil Med 2023;60:572-577
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/60/7/60_60.572/_pdf
3) 田尻后子,曽我部美恵子,田村一代,藤沢しげ子,丸山仁司:妊産褥婦の尿失禁に関する実態と関連因子について-妊娠期から産後1ヵ月までの調査より-,理学療法科学25(4):551-555,2010
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/25/4/25_4_551/_pdf
4) 東京大学医学部附属病院 女性骨盤センター “骨盤底筋体操(2&4体操)特設サイト”(参照2025-05-09)
https://www.gynecology-htu.jp/pfmexc/
5) 佐藤珠美,エレーラC.ルルデスR,中河亜希,榊原愛,大橋一友:産後女性の手や手首の痛みと関連要因,日本助産学会誌,Vol.31,No.1,63-70,2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjam/31/1/31_16-16/_article/-char/ja/
6) 日本産婦人科医会,女性の健康Q&A,”マタニティブルーズについて教えてください“.(参照2025-05-09)
https://www.jaog.or.jp/qa/confinement/jyosei200226/
執筆
看護師 山田千文さん