産後、なんでもないことで涙が流れたり、普段は受け流せるようなことでイライラしたりした経験はありませんか?
感情の起伏が激しくて自分自身が辛くなることもありますよね。
そこで、このコラムでは産後に情緒不安定になる理由についてお伝えします。
産後の心の変化
妊娠・出産前後には体も心も大きな変化を経験します。
精神的な変化は、赤ちゃんへの愛情や家族との絆を感じて嬉しさに満たされるなどポジティブな面もある反面、イライラしたり気持ちが沈んだりとネガティブな変化もあるでしょう。
変化の度合いは人によってさまざまなので全く気持ちが変わらない人もいます。
しかし、30~50%の人はマタニティブルーズと呼ばれる、イライラしたり気持ちが沈んだりする心の変化を経験します1)。
情緒不安定になる3つの理由
ここでは産後に情緒不安定になる理由を大きく3つご紹介します。
1.赤ちゃんの育児
赤ちゃんを育てている間は常に気持ちが緊張状態にあります。
いつ何が起きるかわからず、特に初めての子育てで慣れないこと、わからないことの連続だと精神的疲弊はたまります。
また、特に生まれたての赤ちゃんは夜間授乳が続き、慢性的な寝不足となるでしょう。
睡眠不足は精神的疲弊を加速させます。
そして子育て期間中は社会との関わりが希薄になりがちになります。
社会との適度な関わりはメンタルヘルスを維持するうえで重要です。
これは子育て期に限定せず、全世代で社会との関わりが希薄になるとストレスが加わることがわかっています2)。
2.女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)
女性ホルモンのエストロゲンやプロゲステロンは、妊娠中に増加し、分娩直前に1番多くなり、分娩後に急激に減ることが分かっています。
エストロゲン1)やプロゲステロン3)が分娩後に急激に低下することで、気分の落ち込みが起こりやすいことが分かっています。
ホルモンの変化は、女性自身がどんなに頑張ってもなおせないものです。
分娩後に気分の変動が大きくなるのは、女性自身のせいではありません。
このような時期に1番大切なのは、睡眠や休息がとれる環境です。
ご自身を責めず、周囲に支援を求めたり、自治体のサービスを活用してください。
3.支援やサポートが少ない環境 4)
現代は、核家族(実家や義家族と同居せず夫婦と子どものみのご家庭)が多く、子育てや家事の負担が出産した女性に大きくのしかかっていると言われています。
いわゆるワンオペ(ワンオペレーション:家事や育児を一人でおこなっている状態)では、
睡眠も細切れで、心も体も休まるときがありません。
そんなときは、ベビシッターやお住まいの地域の「産後ケア事業」、ファミリー・サポートセンター、一時保育(保育園に一時的に子どもを預けられる制度)の活用がおすすめです。
現在、全国の自治体で産後ケア事業をおこなっており、産後ケア施設(お母さんと赤ちゃんが一緒に泊まれる施設)や自宅に訪問して授乳や沐浴などの育児を支援するサービスがあります。お住まいの自治体のホームページでご確認ください。
産後うつになる人は 10~15% 4)
このように産後は精神的な変化が著しい時期です。
出産した母親の約 10~15%(7~10人に1人)は産後うつの状態を経験すると言われています。気分の落ち込みが強いときや涙が止まらない、食事がのどを通らない、赤ちゃんや自分を傷つけたくなるなどの症状がでたときは5)、出産した産婦人科(産婦人科医・助産師)、お住まいの地区担当の保健師(母子保健担当)、心療内科や精神科へ相談してください。
まとめ
産後に情緒不安定になる理由についてお伝えしました。
感情の起伏が激しくて自分自身が辛いと感じるときは一人で抱え込まず、身近な人やかかりつけの産婦人科、地域の保健師、心療内科や精神科などに相談してください。産後の育児はとても大変です。自治体の産後ケアサービス(産後ケア施設や訪問育児支援)を積極的に活用してください。
監修

柴田綾子 先生
淀川キリスト教病院 医長
参考文献
1)公益社団法人日本産婦人科医会:マタニティブルーズについて教えてください
https://www.jaog.or.jp/qa/confinement/jyosei200226
2)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所行動医学研究部 成田恵:こころの健康を保つために大切なこと
https://www.ncnp.go.jp/nimh/behavior/anxiety/selfcare.pdf
3)Saya Kikuchi, Natsuko Kobayashi, Zen Watanabe, Chiaki Ono, Takashi Takeda, Hidekazu Nishigori, Nobuo Yaegashi, Takahiro Arima, Kunihiko Nakai, Hiroaki Tomita .The delivery of a placenta/fetus with high gonadal steroid production contributes to postpartum depressive symptoms. Depression and Anxiety. Depress Anxiety. 2021 Apr;38(4):422-430.
4)公益社団法人 日本産婦人科医会 令和 3 年 4 月. 妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル ~産後ケアへの切れ目のない支援に向けて~ 改訂版
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/mentalhealth2021_L_s.pdf
5)日本周産期メンタルヘルス学会.周産期メンタルヘルス コンセンサスガイド2023
http://pmhguideline.com/consensus_guide2023.html
執筆
助産師 賀茂綾乃さん