「テストステロン」と聞くと、多くの人が「筋肉ムキムキ」「男らしさ」「性欲」といったイメージを思い浮かべるかもしれません。実はこのホルモン、思った以上に心身に影響しているのです。今回は、知れば知るほど面白い、テストステロンの多彩なパワーに迫ります。
テストステロンの身体への作用
テストステロンは単なる「男らしさの象徴」ではありません。私たちの体を陰で支える働きを持っています。
1. 筋肉・骨格の発達と維持
テストステロンは骨を強くする働きを持つほか、筋肉の修復を行います。筋肉の成長に必要な「筋サテライトセル」を目覚めさせ、働かせているのです。また、筋肉の細胞が減ってしまうのを防ぐ役割も持ち、筋肉の維持や強化を助けています1,2)。
2. 血管・代謝の健康維持
テストステロンは、動脈硬化の予防や脂質代謝の改善、インスリン抵抗性の改善など、生活習慣病の予防にも一役買っています。実際、テストステロンが低下すると、肥満や糖尿病、循環器疾患のリスクが高まることが分かっています。
3. 造血作用
テストステロンは、骨髄での赤血球産生を刺激し、ヘモグロビンの値を高める働きも持ちます。貧血気味の男性がテストステロン補充で改善する例も報告されています1)。
メンタルや社会性への作用
テストステロンは、肉体的な男らしさだけでなく、男らしい印象を与える行動を起こす精神面にも作用します。
1. 精神安定と集中力
テストステロンは脳にある特に海馬において記憶や集中力に関与していることが分かっています。加齢やストレスでテストステロンが減少すると、うつ症状や不安、集中力低下が現れるという報告もあるのです。補充療法で改善するケースも報告されています。
2. チャレンジ精神や社会性
テストステロンは、活動量を上げたり、チャレンジ精神を高めたり、社会貢献意欲を強くするなど、社会的な行動にも影響を与えます。リスクを恐れない行動や正直さを重んじる傾向も、テストステロンの働きの一部です1)。
テストステロンの分泌が低下しているサイン
以下のような変化を感じたことはないでしょうか?
- 筋肉量や筋力の低下
- 体脂肪の増加
- 性欲や性機能の低下
- うつ症状や集中力の低下
- 疲れやすさ、やる気の低下
心当たりがある場合、テストステロンの分泌量が低下している可能性があります。男性の場合は更年期障害によって引き起こされているかもしれません。治療できる場合もありますので、泌尿器科の受診も1つの方法です3,4)。
まとめ
テストステロンは、心身に幅広く影響する大切なホルモンです。テストステロンの分泌低下によって、さまざまな健康リスクが高まります。もし思い当たる症状があれば、医療機関で相談することも検討してみましょう。
監修

宮本亜希子 先生
BIANCA CLINIC 女性医療クリニックLUNA スワンクリニック銀座
参考文献
1)日本メンズヘルス医学会.“テストステロンとは”.日本メンズヘルス医学会ウェブサイト.2024.
https://jsmh.jp/testosterone/index.html,(参照2025-07-05).
2) 日本メンズヘルス医学会.“メンズヘルスコラム テストステロンと筋肉の関係”.日本メンズヘルス医学会ウェブサイト.2024.
https://jsmh.jp/column/detail/17,(参照2025-07-05)
3)日本内分泌学会.“男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群)”.2024-12-10.
https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=71,(参照2025-07-05).
4)井出久満.“男性更年期障害と生活習慣”.Functional Food Research.2024,vol 20,p.111-117.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ffr/20/0/20_ffr20_p111-117/_pdf/-char/ja
執筆
臨床検査技師 佐々木祐子さん