「生活の質」を意味するQOLは、身体的健康や精神的健康などだけでなく、性的な健康も影響する概念です。しかし、性的な健康と言われてもピンとこない方も多いでしょう。
本記事では、性的な健康度とQOLの関係性について解説します。
そもそも「性的な健康」とは?
「性的な健康」と聞くと、女性であれば生理不順や不妊、男性であれば勃起不全のような不調を想像するかもしれません。しかし、世界保健機関(WHO)は「性的な健康」を以下のように定義しており1)、身体面以外の要素も性的健康に大きく影響します。
- セクシュアリティに関連する身体的、情緒的、精神的、社会的な幸福の状態であり、単に疾病、機能不全、または虚弱の不在ではない。
- 性的な健康は、セクシュアリティと性的関係に対する肯定的で敬意あるアプローチ、ならびに強制、差別、暴力のない、快く安全な性的経験の可能性を必要とする。
- 性的な健康が達成され維持されるためには、すべての人々の性的権利が尊重され、保護され、実現されなければならない。
この定義に不可欠な要素には、以下のような点が含まれます。
- 性の権利
- ジェンダー平等
- 性暴力からの解放
- 包括的な情報と教育
- HIVやエイズおよびSTIの予防とケア
- 性に関する懸念への対処・治療
- 性の喜びの認識
性に関する不調だけではなく、適切な情報を得たり、ジェンダーを問わず平等に扱われたり、性的な満足度を感じられたりすることも、性的な健康には欠かせません。
性的な健康と心理的な健康の関係性
研究から一貫して明らかになっているのは、「性の健康が良好な人ほど、抑うつや不安が少ない」という点です。2)
- 女性:性機能が高いほど気分が安定し、性欲低下は抑うつリスクを上げる
- 男性:性欲低下・勃起不全・オーガズム障害があると精神的不調を感じやすい
また、性的満足度も心理的な健康を維持する上で重要な要素です。性的満足度が高い人ほど、心の不調が少ない傾向があります。同性・異性どちらのパートナーでも、満足度が高いことが、精神的な問題の減少と強く関係していました。
ただし、性的な活動の頻度は「多ければ多いほど良い」というわけではありません。一部の研究では、週1回程度を境に、心理的メリットが飽和する可能性があると報告されています。
つまり、性行為の“数”よりも、「どれだけ満足できるか」「どれだけ心がつながっていると感じられるか」といった“質”が、心の健康にとってより大切だと考えられます。
日本人の性的な健康はおろそかにされやすい傾向にある
日本性機能学会が25年ぶりに行った大規模な全国調査では、日本人男性の約1,400万人がEDを抱えており、さらに約910万人が早漏に悩んでいることが明らかになりました3)。これらの性機能障害は、日本人男性の生活の質(QOL)を低下させる大きな要因とされています。
また、2021年に行われた17~19歳の男女を対象にした意識調査では、性行為について、「気持ち良い」(52.2%)、「愛が深まる」(42.4%)、「幸せ」(33.3%)といった肯定的なイメージを持つ人が多い一方で、女性はこれらのポジティブな印象を持つ割合が男性よりも低いことがわかりました。4)
さらに、14.4%の女性が「気持ち悪い」と感じていることも明らかになり、性行為に対する感じ方には男女差があることが示されています。性的な健康がQOLと関連している一方で、性行為をポジティブに捉えるか否かが、男女間で大きく異なるケースは珍しくありません。
男女を問わずQOLを高めるためには、性教育、カウンセリング、およびセラピーにおいてジェンダーに特化したアプローチを考えることも必要です。
まとめ
私たちの生活の質を高めるうえで、性的健康は欠かせない要素です。とはいえ、性に関する悩みをパートナーに相談しづらいと思う方も多いかもしれません。
しかし、自分やパートナーが一緒になり、正しい性知識を手に入れたり、学んだりすることもQOLの向上につながると考えられます。性に関して悩んでいる方は、悩みを抱えたまま一人で思い詰めず、早めに専門家や医療機関に相談するようにしましょう。
監修

藤﨑 章子 先生
医療法人社団有恒会 オザキクリニック 新宿院
参考文献
1) World Association for Sexual Health . “Declaration of Sexual Rights (2021年改訂版)” . 2025-06-24 .
https://www.worldsexualhealth.net/_files/ugd/793f03_0157859eef0344f7b0bd6202574ea124.pdf , (参照 2025-06-24) .
2) McBride KR, Fortenberry JD. Associations between sexual health and well-being: A systematic review. Journal of Sex Research. 2024 , 61 , 3 , p.267–280 .
3) Tsujimura A, Fukuhara S, Chiba K, Yoshizawa T, Tomoe H, Shirai M, Kimura K, Kikuchi E, Maeda E, Sato Y, Nagai A, Nagao K, Sasaki H; Clinical Research Promotion Committee of the Japanese Society for Sexual Medicine. Erectile function and sexual activity are declining in the younger generation: Results from a national survey in Japan. The World Journal of Men’s Health. 2025 , 43 , 1 , p.239–248 .
4) 日本財団 . “18歳意識調査 「第39回 – 性行為 –」詳細版 , 性行為についてのイメージ” . 日本財団 . 2021-07-28 .
https://www.nippon-foundation.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/new_pr_20210728_2.pdf , (参照 2025-06-24)
執筆
美容&医療ライター 伊藤美咲さん